盆栽がもっと楽しくなる知っておきたい鑑賞の仕方5つのポイント

盆栽の知識 高村

盆栽がもっと楽しくなる知っておきたい鑑賞の仕方5つのポイント

盆栽の鑑賞の仕方を知っていると盆栽のすごさが分かる。

盆栽を鑑賞するなら個々の鑑賞の仕方で楽しめばいいのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、鑑賞のポイントを知れば鑑賞する際の楽しみもより大きなものになります。知識を得、観察眼を養えば、自然の縮景である盆栽の背景にあるストーリーを読み取ることができ、盆栽へのさらなる興味も湧いてくるに違いありません。

盆栽を鑑賞する際に

盆栽の表と裏について

昨今、盆栽は様々な方向から眺められるように置かれることが多くなっており、表や裏の区別が曖昧にもなってきています。

昔は床の間に掛け軸と共に飾られており、一方向から鑑賞されることが多く、そのため表と裏がはっきり分けられていました。床の間では座って鑑賞することが基本で、目の高さなども考えて、卓や台座などを使って、根張りから立ち上がりの部分が目の高さになるように飾られていました。樹高もある程度制限があったと言われています。

生花をいけるに当たっても、花材をいける向き、花、枝葉の表と裏があるように、盆栽においても樹の表と裏があります。
屋外にて植物を四方八方から見たときに、その植物は一番美しく見える向きというのがあります。お花見の桜などでも、花や枝ぶりが美しく、人だかりができているような箇所があるかと思います。この点を盆栽に取り入れた場合、最も美しく見える面を表、その反対側を裏としたのです。

それでは盆栽において美しく見えるとはどういうことでしょうか。表は根張り、立ち上がりの形がよく見える方とします。幹の模様、幹肌、枝振り、幹や枝の芯などの部分がよく見えるように、幹と枝の調和、枝と枝の調和など、その盆栽が持つ美点が最大に発揮するように植えられているということです。表から見たときに一番映えるように管理はされていますが、裏側にも多くの枝を配し、盆栽に奥行きを持たせるように工夫されています。

[表(正面)の決め方]

盆栽を鉢に植える前に、まず正面を決めます。これは盆栽にとって非常に大事な一歩となり、その盆栽への印象を決定するほどです。表は最初からはっきりしていることもあれば、成長していく過程で樹形も変化し、剪定や植え替をしているうちに、表が変わってきたりもします。生長に従って、最も美しく見える位置を決めていかねばなりません。既に年月を経て、成熟の域に入っている盆栽であれば、自ずと表は決まってくるかもしれませんが、若い樹であれば、入手したときによく観察することが必要です。 

盆栽は‘自然の景色を鉢の上に凝縮する’という考え方で、平面的ではなく空間的な表現の仕方が求められています。それを踏まえて盆栽の表に求められるのは、鉢に植わっている位置から見ても、ほとんどの場合が前を広く見えるようにします。これは根張りなどが露出している状態をよく見えるようにするだけでなく、根以外の石や苔などによって自然の感じや奥行きを感じさせるようにしています。

根が張っているものは手前に根が露出していることでさらに重厚感を演出することができます。また、真ん中ではなく、ほんの少しだけ左右のどちらかに寄せて植えることで、空間を感じさせることも大事な要素となります。幹の曲がり方は全体的にやや前方に曲がっている方を表にし、反っている方を裏にします。手前に傾けることで、その樹が大きく茂って、覆いかぶさるようになっているような印象を与え、盆栽の大きさを強調しようとしているのです。

しかし一度正面と決められた面が永遠に正面であるとは限りませんので、植え替えの度に最も良い面を考慮して向きや傾斜を変えたりしていきます。
表と裏を見極められれば、その樹のよさが一層引き立ちます。苔や草を植える場合にも、正面からの‘見え方’を考えて植えると、さらに体裁がよくなります。

盆栽の鑑賞の仕方

盆栽の表と裏がわかったところで、盆栽の鑑賞の仕方について見ていきましょう。

盆栽というのは、鉢の上の1本の木の姿から自然の景色が連想できるものです。依って、よい盆栽というのは、人工的、作為的な部分を感じさせず、自ずと自然の風情にいざなうようなものです。

とはいっても、自然のもつ要素すべてを、鉢の中に表現することは大変難しくもあります。自然風景、山野や森、樹などのエッセンスを象徴的に表すことにより、観る人にそれらを連想させるような様式を取ることとなります。その際、大きく分けて‘樹形美’、‘古色’、‘風格’の3つのポイントが重要です。
漫然と眺めるのではなく、盆栽の約束事をおさえて鑑賞すれば、より盆栽が奥深く感じられるでしょう。

鑑賞のはじめに

盆栽を鑑賞する時には、最初は近くでじっくり見てから、少し離れて全体を見るようにして下さい。

盆栽鑑賞の第一歩はまず樹の形が最もよく見える、前述の、表(正面)から見るということです。展覧会などでは、予め表から鑑賞するように設置されているので問題はありませんが、販売されているものではわからない場合もありますので、ぜひ表を見つけてみて下さい。

また、目線を盆器の位置にし、やや見上げるように眺めるのが盆栽を美しく見るポイントです。上から見るのは推奨されておらず、他には同目線で見るのがおすすめです。そうすることで、盆器の上の樹が大木かのように感じられたり、自然の情景が迫ってくるように感じられたり、盆栽の醍醐味をより一層味わうことができるでしょう。

樹形美
樹木はその高さ(樹高)により、高木、亜高木(※高木と低木との中間の高さをもつ樹)、低木に区分され、種類ごとに固有の樹形があります。樹種ごとの特性と、樹が育った環境のなどにより、その樹特有の樹形が生まれてくるのです。樹が育った環境とは、風の吹きすさぶ海岸線であったり、なだらかな平野であったりするでしょう。従って、1つの樹形を見たときに、樹種のもつ味わいと、その樹のある風景が連想されるようなものであるべきなのです。

古色(こしょく)
樹が美しい形をしていることは鑑賞する際まず目を惹くかもしれません。加えてたくましい生命力、年輪のようなものを感じるときに、美しさや生命の神秘を覚えるのではないでしょうか。樹に古さがでてきてこそ、風格や品位が感じられるものです。樹齢と関係なく古さを感じさせる木を、‘古色がある’と言います。若い樹でも古色のある盆栽は味があって好まれます。

風格
第16代アメリカ大統領リンカーンの有名な言葉に「人間40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」というのがあります。人間、40歳も過ぎれば、その人の知性や品性、考え方などが顔に表れるそうです。樹木においても同じことが言えるやもしれません。単に年月を経ているというだけでなく、手をかけ長い風雪の中を生き抜いたものには自ずから風格が漂うはずです。

盆栽の見方

盆栽の見どころがわかってくると、よい盆栽というのがどういうものか自然とわかってきます。もちろん、見る人の好みや感性といったものに左右されるものではありますが、見どころを知っているのと知らないのとでは、盆栽の妙味もちがってきます。

根張り
土の表面より外に出て見えている樹の根元の上根の状態で、盆栽の土台となるとても大切な部分。

立ち上がり
根元から最初の枝(一の枝)までを言い、幹がもっともよく見える部分。根張りの力強さを受けて幹に移る箇所。

幹肌
幹の表面、皮のこと。盆栽の大事な要素として、古さや時代感が挙げられるが、 これを表すのが幹肌です。

幹模様
幹の曲がり方や太さの変化などを言う。幹が下から上にかけて細くなっていくさまを‘コケ順’と呼びます。

枝配り
どこにどのような枝が出ているかという枝の配置。木の幹から生える枝と枝の隙間やバランス的な配慮のこと。

樹冠
全体的な中心の、葉や枝が茂っている部分を幾つかのブロックに分けた場合の一番上の部分を指します。

樹芯
樹の先端部分で幹の頂点、樹冠の頂部のことを言う。‘頭’‘芯’とも言う。樹形を作る際の樹格を左右します。

葉性
歯の色、大小、形態、出方など、葉のもつ性質のこと。葉性は、改善がしにくく、樹を選ぶ際、注意が必要です。

鉢合わせ
植物と鉢を上手く組み合わせること。樹種や樹形によって鉢の形、大きさ、色などのバランスが重要。

ジン(神)・シャリ(舎利)
幹や枝が枯れて、朽ち果て、そのままの形を残しつつ白骨化したものを指すその枝先のものをジン、幹の一部が枯れたものをシャリという。松柏類に多く、特に真柏や杜松では見どころのひとつとされる。松柏類に多く、特に真柏や杜松では見どころのひとつとされる。このジン・シャリの芸で評価が大きく変わることもしばしばです。

鑑賞ポイント

鑑賞する際には、まず鉢の形や木の姿勢から正面を見極め、全体を見て樹形を把握し、盆栽の下からのぞき込むようにして、
上記
根張り→立ち上がり→幹肌→幹模様→枝配り→葉性→樹冠→鉢合わせ→飾り台
の順に見ていくとよいかもしれません。
特に1に根張り、2に立ち上がりと言われるほど、は重要です

樹種ごとの鑑賞について

松柏盆栽
松・杉・檜などの樹々は日本の風土に深く根づいており、日本の風景に不可欠な添景物です。年間を通じて緑を湛えた松柏類は力強さや神秘性、自然の荘厳さなどを強く感じさせます。この風趣を盆上に表したものが松柏盆栽であり、盆栽の王者といっても過言ではないでしょう。松柏類の樹々は独特の気品を備えており、年間を通じていつでも鑑賞できます。

松柏盆栽鑑賞ポイント
根張り 自然の松柏類のようにしっかりと根をおろしているかどうか
 立ち上がりが自然かどうか、不自然に細くなっていないか。
幹肌 古びた味わいがあるかどうか。幹肌の荒れ方、荒皮性(若い樹木でも幹肌が短時間で荒れて古さが出てくる性質)、亀甲性(縦割れの古びた幹になっている状態)、岩石性(樹皮が固い岩石状になるもの)は特にその風趣に注意する。
ジン・シャリ 自然さ、豪胆さを見る。枯れたもの生きているものの共存、生死一体感に留意する。
 根元から一の枝、二の枝、三の枝と続く枝順とその太さや細さ、長いか短いかなどバランスを見る。
 十分に細かくなっているかどうか
 色・形などが樹とよく調和しているかどうか。

雑木(葉物)盆栽
春に芽吹いた葉がすくすくと成長し、夏に新緑から濃い緑へと色を深め、秋に葉が、赤や黄色へと色づき、冬になり葉が落ちるという、樹全体で静謐な侘び寂びを表しています。毎年季節の移り変わりに応じで、その姿をさまざまに変化させていきます。樹の葉、枝や幹などの四季による彩り豊かな変化を楽しむことが、鑑賞のコツと言えましょう。

花物盆栽
花の美しさを主な鑑賞の対象とします。従って花を鑑賞できる機関が短く、だからこそ、葉物類のように、葉が枯れた後に、芽吹き、年に一度、美しい花を咲かせ目を楽しませてくれる姿に、より一層自然の摂理というものが感じられます。花物と言っても樹形や根張りは大事ですし、花の美しさを強調するような鉢が選ばれているのでその点も鑑賞のポイントです。

実物盆栽
実がなっている時期が最高の鑑賞期間となります。野山にはたくさんの実がなる樹があり、木の実のある光景は日本の郷愁をそそるものでもあります。実も花と同じように、樹種や品種によって、大きかったり小さかったり、色とりどり、香りがあったりと種々様々です。実の色や形などの美しさと、実と樹とのバランス、根張り、鉢映りなどを念頭に置き、鑑賞するのがよいでしょう。

※その他花物類・実物類の鑑賞について
花や実がつく花物類、実物類の鑑賞について上記以外についてまとめて解説しておきましょう。
花が美しいから、実がかわいいからと眺めている分には、園芸、鉢植えで十分です。盆栽とは、植物の美しさだけでなく、自然の風景や趣を感じさせるものです。花物類や実物類の見どころは下記の点にも注意が必要です。

1.花や実が小さいこと
花や実が大きくなりすぎると、それ自体が際立って、自然の風景や趣を凝縮する=縮景から遠ざかってしまいます。

2.花や実が多すぎないこと
花や実が目立つのは、緑や茶色をベースにした幹や枝葉と、対象的な色であったり、固有の形をしているからです。花や緑が多すぎると、それらを引き立たせる緑や茶色は失われ、彩りが前面にでてしまい、焦点がぼやけてしまいます。花が小さい、実が小さいということは、根本的に見て木を大きく見せます。

草物盆栽
訪れたことのある山や野原で見つけた山野草のある風景を手軽に再現できるのが草物盆栽であり、小さなスペースで眺めて楽しめるという手軽さが魅力です。新芽が出たり、花が咲いたり、紅葉がはじまったりと、それぞれの山野草が四季を通じで様々な姿を見せてくれるので、季節に応じた鑑賞の仕方が楽しめます。

→盆栽の樹種については盆栽の種類ページをご覧下さい。

盆栽の全体像がわかって細部に入っていくと、多くの部分が緊密に関連を持ちながら全体を形作くっているといことが分かり、感動さえ覚えます。

ここでは〜についての鑑賞のポイントや順番を列記しましたが、樹種や大きさ、樹齢により一概には言えないこともあります。

春夏秋冬、四季折々の展覧会や美術館、専門店などに足を運んで良品、逸品、名品をたくさん鑑賞することで、鑑賞眼を養ってみて下さい。盆栽作りの参考にもなり、感性も磨かれるに違いありません。

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この記事を書いた人

高村雅子

高村雅子
盆栽妙の店長 盆栽家。三重県鈴鹿の田舎生まれ。大学進学を機に大阪に出て卒業後は秘書として企業で働く。結婚して退職、子育てに奮闘。子供も大きくなり、自分の時間が持てるようになったので、かねてより大好きだった植物をもっと勉強するべく、盆栽の世界へ踏み入ることに。同郷の盆栽職人 太田重幸に師事し、盆栽の奥深さを修行した後、自宅で教室を開業。2007年にインターネット盆栽販売店 盆栽妙をオープンし、盆栽メルマガ登録数日本一に。盆栽はじめるサポートに日々奮闘中。
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