似てるようでまったく違う盆栽と観葉植物。盆栽を始めるにはまずは正しい理解から。
「盆栽」も「園芸」の鉢花も鉢の中に植えられた植物という点では同じであり、植物を鑑賞するという上では、「盆栽」「園芸」「ガーデニング」も同じであるとも言えるでしょう。「盆栽」を始める上、すでに始めている方もこれらの違いや共通点について理解することで、それぞれの鑑賞の仕方、生育の仕方、「盆栽」の仕立て方などへの心構えを養うことができるでしょう。
盆栽と園芸・ガーデニングの違い
「盆栽」は「園芸」や「ガーデニング」とは異なります。
「園芸」と「ガーデニング」も一緒のように捉えられることもありますが、厳密には意味は違っています。
「園芸」は、果樹や野菜などの植物を育てたりすることであり、「ガーデニング」は庭作りと訳されるように、庭全体を1つの風景として作り上げ、植物の配置に工夫し、よりいい状態で成長できるように世話をするという意味があります。
「園芸」の目的が1つの植物を美しく生き生きと長く成長できるように育てるのに対し、「ガーデニング」は庭全体を1つの風景としてどれだけ美しく魅せるかが重要なポイントなのです。
「園芸」は庭がなくても一つ一つの植物に対して、丁寧に愛情を注ぐという姿勢であって、全体としての景観は二の次となります。決して「ガーデニング」が植物に対しての愛情が足りないと言っているわけではありません。
「園芸」も「ガーデニング」も、それぞれ違う視点から植物のことを考え、最良の環境を作ろうと努力しているのです。
「盆栽」は主に浅い容器=浅鉢に栽培されている植物のことであり、自然の風景を小さな鉢の上に表現する醍醐味を味わうものです。本来は大木になるような木を小さく仕立てて、植物のもつ雄大さや美しさなどを、凝縮して表現するものなのです。植物そのものと鉢とで全体であり、その全体を鑑賞するのです。
一方、「園芸」は主に深鉢が使われており、花や草木そのものを楽しむものです。「園芸」において鉢植えに凝ったとしても鑑賞の主体は植物自体であり、鉢は脇役にすぎません。植物が活き活きと育つような環境を整えて、各々の植物の性質を活かして引き出すものが「園芸」です。
例えば、‘桜の鉢植え’であれば、ある程度大きさのある鉢を使って、水もちや一定程度の根張りを確保できるようにするのですが、‘桜の盆栽’であれば小さい鉢で樹の高さを抑えて、1、2年に一度は植え替え、根を切り、成長を抑制しながら、理想の樹形を探求しつつ、メンテナンスをしていく、という栽培方法になります。
理想の樹形を追求していく「盆栽」は、盆=鉢に“自然の縮図”を作り上げる故です。大木や古木の風情を持たせるものだけに、鉢植えに比べるとより長い年月をかけて育てる必要があります。その工程、完成しつつも流動していく盆栽の有り体は、“侘び寂び”を体現するもので、日本独特の伝統芸術であり、栽培技術や作り手の独創性にも細やかさが要求されるのです。
樹木の姿・形=樹形も異なり、「盆栽」は下に向かって広がる不等辺三角形に整えられることが多く、「園芸」の鉢植えは上に向かって広がり、逆三角形のものが主となります。共通するのは、切り花などと違い‘根付いている’という点となります。
「盆栽」における鉢との相性
「盆栽」は植物、樹木だけを見るのではなく、鉢との相性が重視されます。樹木と鉢との相性を‘鉢映り(はちうつり)’といい、‘鉢映り’がいい「盆栽」が高く評価されます。
盆樹と鉢が一体となって成り立っているので、樹形づくりの過程に合った鉢が必要であり、樹形が完成した「盆栽」でも、その樹形を引き立たせるための鉢合わせは必要です。また、樹木と鉢が完全に調和したと思われても、樹の成長や変化に合わせて、再度鉢合わせが必要となったりもします。
「盆栽」にはそれぞれの樹形に合った鉢型があるのですが、おおまかには松柏類には、釉薬がかかっていない素焼きと焼き締めなどの‘泥もの’、雑木類には色鉢の‘釉薬もの’になります。
また、「盆栽」にはそれぞれの樹形に合った鉢型があります。樹が細くて繊細な感じのものには浅くて丸みのある鉢、幹が太くて力強いものには角ばったやや深さのある鉢が、また懸崖には皿型、正方形や六角、八角の下方鉢などが似合うとされています。
盆栽の眺め方
植物には花が咲いている、実がたわわになっている、などといった箇所により、美しく見える角度があるかと思いますが、「盆栽」にははっきりと正面があり、「盆栽」の鑑賞価値が最も高いのが正面となっています。植物は本来なら、右から左から、前から後ろから、上から下からと、様々な角度から眺めてもいいわけですが、「盆栽」は正面からの姿を意識して作られます。
昔は、「盆栽」は床の間に飾られることが多く、そのため一方向から鑑賞されることが主流だったため、表と裏が存在しています。幹の曲がり方や、根の張り方、枝ぶりなど、樹のよいところを発見し、“どの方向から見たら一番よく見えるか”と考えると、自ずと正面が決まってくるはずです。「盆栽」の正面とは、はさみと針金によって、自然の風景を切り取って描く風景画のようなもので、「園芸」の立体的な鑑賞の仕方とは趣が違ってきます。
鉢植えが植物を育てて成長させることを主目的として、植物の姿形や香りなどをストレートに、わかりやすい鑑賞をするのに対し、「盆栽」では変化していく過程の様子も鑑賞対象であり楽しみます。
「盆栽」は高度な技術や、鑑賞までの長い管理期間、手間をかけておきながら、‘屋内で鑑賞するのは2〜3日’であり、1年を通じて屋外管理が基本です。何日かに渡って屋内鑑賞したい場合でも、数日おきに屋外に出して休ませたり、半日でも屋外においたりします。樹の成長も根切をしたりして抑制するので、鉢も極端に小さくしてしまうので、特に夏は何度も水をやります。
観葉植物とはどう違うか
眺めて楽しむのは「観葉植物」も同じではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「観葉植物」は基本的に、年間を通して室内にて栽培できる植物のことです。
「観葉植物」の定義は、‘植物の葉の形や大きさ色、模様などを見て楽しむ栽培植物’ということです。
「盆栽」と同じく、大木になるものを小さく育てているケースも非常に多く、どちらかと言えば、鑑賞対象の植物本来の樹形の再現ではなく、成長できないまま幼株のままでいるものを鑑賞します。熱帯産の植物は暑さに強く寒さに弱いという特徴もあるので、日本の風土(主に北海道・本州)では実質大きく育たないということも影響しています。
例えば定番の「観葉植物」である‘ポトス’は、初心者でも育てやすく、品種も多く初心者からベテランまで楽しめる植物です。日本で販売されている‘ポトス’のほとんどは幼株で、葉が小さく卓上においてもかわいらしさがありますが、原産地は熱帯雨林のソロモン諸島であり、本来の生育環境では、葉の大きさが1m近くになる大型の観葉植物です。
‘ポトス’は基本的に家の中で管理しますので、室内がジャングル化しないようにするためにも剪定を施しますが、家の環境下で植物がすくすくと生育でき、美しい姿でいられるようにするために剪定が必要になり、「盆栽」の剪定とは一線を画します。
園芸・ガーデニングと盆栽の似て非なる点
「園芸」とは、観賞用に植物を、野菜、果物など栽培すること、それらの栽培技術であり、
「ガーデニング」とは植物を育てるだけではなく、植物の配置や、色彩、季節などを考慮しながら多種多様な複数の植物を用いて、庭に柵や生け垣などを配置しつつ庭造りを楽しむ、あるいはベランダやテラスなどに様々な草花を植栽し、限られたスペースをデザインしていくこと
です。
「盆栽」は、樹を健康に育てるという点では「園芸」に近いでしょう。しかし、「盆栽」を育てる過程において様々な工夫を施し、鉢全体をデザインするという点では「ガーデニング」に近いとも言えます。
「盆栽」を仕立てる過程では、葉の茂み具合や色合いの調整や、一本の幹を強調するために他の枝や花の数を減らしたり等、空間的な技法も多く用いられます。
「園芸」においても「盆栽」においても、樹木の枝を切り、形を整える剪定が必要ですが、植物を大きくすることに重点を置く「園芸」であれば、植物の成長点を残すことが必要になりますが、「盆栽」のように植物を一定の大きさに保つためには、植物の成長点を切り捨ててしまうことが必要となり、全く違った剪定の方法が必要になります。
植物を生き生きと保つことを主眼に置き、ある意味無限に大きくしていくことを目的とすることをめざす「園芸」と、一定の大きさを維持しながら育てていく「盆栽」とは育て方の違いはありますが、「盆栽」も「園芸」もどちらの場合も植物に対する愛情を注ぐことは不可欠です。「盆栽」も「園芸」も「ガーデニング」もそれぞれ違う視点から植物のことを考え、最良の環境を作ろうと努力しているのです。
さりとて日本の「盆栽」が持つ形の種類や思想は、「園芸」とも「ガーデニング」とも違う脈略の中で、長い時を経て積み重ねられ、日本独自の文化として成熟してきたものなのです。
相違についていろいろと述べてはきましたが、「盆栽」を今からはじめようとする場合、相違点や技術のあり方などを突き詰めすぎるのも考えものです。「盆栽」をはじめるにあたっては、園芸」や「ガーデニング」と同じく、植物を慈しむ気持ちを持ち、木や草を、あせらずゆっくり育てていこうという心構えを持つことが大切なのです。