盆栽界の革命児 平尾成志 インタビュー

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盆栽界の革命児 平尾成志 インタビュー

日本文化継承のため異端の道を行く、世界で活躍する話題の盆栽アーティスト平尾成志さんに話を伺いました。

音楽、アート、食などとコラボレーションし、常識を覆すような盆栽パフォーマンスで、日本の伝統文化である盆栽を広めようと孤軍奮闘する平尾氏。「盆栽のマインド」を残したいと、海外にも飛び出して世界を舞台に、精力的に活動しています。今日はお忙しい中、お時間を頂戴し、「盆栽の学校」がインタビューして色々お話を伺いました。

平尾氏プロフィールはパフォーマンスイベントページを御覧下さい。

盆栽パフォーマンスは、イタリアにて音楽と盆栽を融合させることにより生まれたそうですが。

盆栽をどう世に広めていくのかを考えたときに、イタリアのクラブに乗り込んで、音楽と盆栽のコラボレーションをしたら、興味を持ってもらって、盆栽のかっこよさを見ている人たちに伝えられるのではないか、とデモンストレーションを思いつきました。

根底には、いきなり、日本、日本文化、盆栽を押し付けるのではなく、興味を持ってもらって、デモンストレーションにより、盆栽のできていく過程をまず眼で楽しみながら、できた盆栽を楽しんでもらう。

様々な国でデモンストレーションをすることがありますが、固定概念を一度取り払ってみて、音楽や、食や、絵などとコラボレーションをすることにより、盆栽に興味のない人たちに興味を持ってもらったり、盆栽ってかっこいいと気づいてもらえたりという感じで、盆栽の新たな見方、魅力を引き出すと伝わりやすいのかと。

イタリアではじめたパフォーマンスに、例えばメインの樹を器に植えるときに高く掲げるというような見せ方や、時間配分など少しずつ創意工夫を重ねていって、今に至ります。

盆栽パフォーマンスにしろ、『成勝園』にて盆栽を手入れするにしろ、常に念頭にあるのは、盆栽は芸術であり、僕たちはその芸術を引き立たせるためのあくまで黒子です。

新聞、雑誌、テレビなどいろいろなところで取り上げてもらって、新進気鋭のアーティストのように言われることもありますが、僕はアーティストというより、黒子であり、職人だと思っています。パフォーマンスに全力で取り組んで、目の前の盆栽を一番よく見せるために腐心する裏方だと思っています。

平尾成志

パフォーマンス前に設計図、イラストなどで前もって形にされるのでしょうか?

パフォーマンスをするに当たっては、頭の中で組み立てていて、設計図やイラストなどにはまず起こしませんね。設計図を書いてしまうと、そのとおり作りたくなってしまうと思うのです。

50%固めて、あとは余白にしておきます。その日にコラボレーションする音や、会場の空気感があとの50%です。段取りは重要ですが、残りは本番でのパフォーマンスにかけます。

その場の空気、雰囲気、風土、ギャラリーまでも取り込み、それまで培った技術と、直感で、眼の前にある、盆栽が芸樹として昇華されるように全力を注ぎ込みます。そこには、その場の空気感を取り込んだ、盆栽が生まれます。

パフォーマンス前にお弟子さんとは打ち合わせをされますか?

弟子との打ち合わせはありません。弟子は僕のパフォーマンスを見ながら覚えてきています。打ち合わせはありませんが、注意事項だけ伝えます。

たとえばきょうは、黒松の根がどれくらい長いかわからないから、ケト土をあまりいれないようにして、と言っていたくらいですね。今日の黒松は全然根っこがなかったから案外スムーズに植え替えできて大丈夫でした。

パフォーマンスが終わった瞬間はどういうお気持ちでしょうか?

スピード感と緊張感を保ちつつ、造成していき、できあがったときは「よくすわったな、すわってくれたな」という感じです。

今日のパフォーマンスでは、計算していたのが一番上のメインのところの一番大きな黒松なのですが、一番上のメイン部分がぐぐぐっと下がってくることもあるので、あれが座ってくれたときは「よっしゃー!!!」となります。

そういう意味で、できあがったものは、安定感を保ちつつ、どこかあやうさ、緊張感をもったものになっているかと思います。

本来、1つの盆栽を作るのに、3~4時間程度かかるのですが、パフォーマンスは限られた時間で、見せることを意識して行うものでもあります。あやういバランスで成り立っているので、迷いや躊躇は、技術的にも技巧的にも命取りです。

平尾成志

国内外問わず様々なパフォーマンスをされていますが、何か心がけていることはありますか?

毎回何か新しいことにトライするようにはしています。攻めるパフォーマンスが多いので、攻めすぎないようにしていることもありますし、同じパフォーマンスをなるべくしないようにしています。

盆栽の持つ芸術性はそのままに、眼前の盆栽を、縮景として、自然の持つ原風景を、その土地の空気感を纏わせて、そこでしかできない、そのときにしかできないものを創り出す、それがデモンストレーションでできる盆栽の魅力だと思います。

僕のパフォーマンスで作る盆栽のテーマで全部統一しているのが、山に登って行って最後に高木があるようなイメージです。

そういったイメージなので下段から上段にかけては途中の道で、草もの、低木ものがあるんです。
次第に上に上がっていくようなさまを表しているので、どことなく懐かしい感じがするのはそういうところではないでしょうか。

ちなみに今日のパフォーマンスの、メインの樹は鬼無の黒松かと思いますので、高松の方に懐かしさをより感じてもらえれば。

だからこそ、パフォーマンスでできた盆栽は、今まで見たことのない新しい感じと、郷 愁やノスタルジックさを誘う、復古的、懐古的なものが共存しているのかもしれません。

場合によっては前衛的な作品、先鋭的な作品になったとしても、根底には自然への敬意を忘れないというのがあります。そういった心構えができあがった盆栽に、時空を超えた太古的な佇まいを醸し出させているのかもしれません。

平尾成志

外では国内よりもさらに、気候、土壌など条件が違う中で、パフォーマンスを行うことについては集中力の保ち方は?

気候、風土など条件が違う中で、集中力を保って、自分をコントロールするという意識はなく、手に仕事をさせています。

盆栽の道に入ってから、これまでいろんなことを学んできて、植え替え、根切り、剪定など反復練習してきて、手が覚えています。手が動いているのを信じます。パフォーマンスの途中で、頭で考えたら間に合わなくなってきますから。

普通に作ると3、4時間かかるような盆栽を、約30分、短いときは15分で作らなければならない時があるので、止まったら終わりです。

本日のパフォーマンスでトライした点とは?

ああ見えて安定が悪いので、やりながらバランスをとって作っていってよく座った、という感じだったのですが、微妙に左に傾いているものに対して、右に流れるものを持ってきているので、それでバランスを取っています。

草木を入れる前のオブジェを作る段階で、どこにどういう植物が入るかをある程度想像しながら、バランスを考えながら作っています。

盆栽の道に入るにあたってはどういったことが必要だと思われますか?

盆栽の道は、終わりのない世界ですし、盆栽園に弟子入りしても、厳しさに耐えかねて辞めてしまう人もいます。うちでもそういうこともあります。

盆栽の道に入るなら、盆栽に向き合う覚悟が必要です。僕自体、大学卒業後自ら選んで盆栽の道に入った。盆栽園を継いだということではないので、小さい頃から家に盆栽があったという環境ではありません。盆栽に触れることが少なかったのですから、人一倍努力をするのは当たり前のこと。

クレイジーにならなければ、盆栽の道をまっとうすることができない。バカにならなければ、盆栽の道を突き進んでいくことができない。

バカに貪欲にならないと、木が思っていることはわからないのではないかと思います。単に時間をそれに使うという以上に、習得したい、わかりたい、ものにしたいという自分の中の声に従って進んでいくというか。

盆栽師になりたいなら、なりふり構わず、思いつくできる限りのことを、盆栽の技術を習得し、盆栽を理解するために突き詰めていく。自分の熱量をすべて盆栽に注ぎ込む。四六時中盆栽のことを考える。僕はそうやってきました。

弟子入りされた頃は、どのように盆栽の仕事に向き合っていましたか?

弟子になりたての頃は、幸い、夜までの勤務形態ではなかったのですが、盆栽の手入れのための剪定や針金掛けなど、仕事が終わった後も1人で残って黙々と練習していました。どうせやるなら死ぬ気でやろうと思ったんで、先輩たちが全員帰っても、簡単な手入れの反復練習をしていました。

量をこなして、無駄を省いていって身体に覚えさせる、身体、手で覚えたことは今でもスピードを要するパフォーマンスで役に立っています。

また、盆栽の仕事を終えると、インターネットが今ほど普及していなかったので、盆栽についての本、雑誌を読も漁ったり、合いた時間で街歩きして情報を収集したり、また、園にある盆栽をどう作っていくか考えたり、それこそ夢の中まで盆栽のことを考える、というような生活をしていました。

そうやって、頭と体で貪欲に吸収していくことが、次のステップにつながっていく。自分自身もそれを繰り返してきて、未だにその途中だと思っています。

平尾成志

パフォーマンスのアイデア作りとは?

僕自体、人に会ったり、いろいろな場所に出向いたりすることで、自分の引き出しを増やしている、そういう感覚があります。

たとえばごはんを食べに行って、お店のインテリア、でてきた料理の盛り付けにも学ぶことはあります。そういう、態勢、姿勢でいれば、様々な人や場所、物事にいくらでも学ぶところはあります。

日々そうやって過ごしていっても、変化は急激でないかもしれません。積み重ねていくことで、いつもの景色も違って見えてくるというような変化が訪れるのではないでしょうか。

感覚を研ぎ澄ますというか、いろいろなことに対しての観察眼、観察力が、アウトプットしたものの差になるかもしれません。

クレイジーになること、バカになること、観察眼を鍛えることは、盆栽に限らず、様々な職業、何かをまっとうしようとする人に当てはまるのではないでしょうか。

年末ということで、昨年はどんな年でしたでしょうか?

平尾成志

(瀬戸内国際芸術祭2019 BONSAI deepening roots アーティスト:平尾成志×瀬ト内工芸ズ。作品No.:mg04より)

新しいチャレンジのあった年とでもいいましょうか。今年は瀬戸内国際芸術祭=瀬戸芸があって、2016年に続いての2度目の参加となりますので、瀬戸芸をより昇華させました。

「平尾成志×瀬戸内工芸ズ。」にて『BONSAI deepening roots』と題し、新作の巨大盆栽を、3年前の瀬戸芸にて女木島の島民のみなさんに託した「島盆栽」を記憶の起点としました。それを、前回と同じ場所で「根づく」ということをテーマに、流れた時間と定着した記憶を空間で演出しました。

単なる挑戦ではなく、年々新しいことを取り入れて挑戦していって、これが来年再来年とまた、ジャンプ台の角度を決めるようなそういう年だったかと。オリンピックを意識しながら動いた年でもあったかと思います。

毎年何か挑戦しているので、毎年しんどいなと思うのは変わりませんね。

平尾成志

(瀬戸内国際芸術祭2019 BONSAI deepening roots アーティスト:平尾成志×瀬ト内工芸ズ。作品No.:mg04より)

今までで一番しんどかったというのは?

3年前ですね。僕の場合、だいたい3年毎に忙しくなるみたいで(笑)。

平尾成志

(瀬戸内国際芸術祭2019 BONSAI deepening roots アーティスト:平尾成志×瀬ト内工芸ズ。作品No.:mg04より)

今から3年前2016年は、はじめての瀬戸内国際芸術祭で、「平尾成志×瀬戸内工芸ズ。」にて、女木島で使われなくなった古民家で、『feel feel BONSAI』と題し、香川の盆栽の起源から盆栽の黄金時代、盆栽の未来像などを表した展示を施しました。これには高松鬼無の盆栽家さんにもサポートして頂きました。

平尾成志

僕にとっても初めての試みであり、精魂込めましたし、私的にも結婚し、埼玉県に自分の盆栽園『成勝園』をオープンさせ、海外でのパフォーマンスに行って帰ってまた行って、という感じで、しょっちゅう出入りしていて、とても忙しい年になりました。結婚式の翌々日には海外に飛んでいましたから、ばたばたでした(笑)。

2020年はどんな年にしたいですか?

何はともあれオリンピックを見据えています。先程も、パフォーマンス後のインタビューで述べましたが、来年は東京五輪があり、本当に詳細は言えなくて申し訳ないのですが、パフォーマンスを披露することになるかもしれません。

オリンピックに向けて、いろいろやってきていた部分もあるので血尿が出ても頑張ります!!!実際出たことはありませんが(笑)。とにもかくにも死ぬ気でやればその先に新たな道が見えると信じて頑張ります!

東京五輪ではできれば、パフォーマンスで、盆栽をより多くの方に見てもらえるような機会を持ち、盆栽の魅力、日本の美、文化を大々的に発信していきたいです。

盆栽業界も、高齢化、担い手の減少など数々の問題を抱えていることを僕も認識しています。それに伴って顧客の高齢化、新規顧客数の伸び悩みも出てきているかもしれません。

僕の盆栽パフォーマンスに、王道の盆栽でないという印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、大々的に発信していくことによって、既成観念を取り除いたところでも、たくさんの方に盆栽を認知、認識してもらって、国内外問わず新たな層を開拓していきたいです。

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この記事を書いた人

小林真名実

小林真名実
福井県出身。関西学院大学卒。雑誌・書籍・ウェブ・携帯サイトの編集に従事。その後、日本の映画・放送・アニメーションなどのコンテンツ産業を国際競争力ある産業とするNPO法人にて広報、戦略室業務などを担当。その後、出産を経て夫の転勤に伴い香川県に移住したことをきっかけに盆栽を知る。日本の伝統文化である盆栽の奥深さを世の中に伝えたく盆栽総合情報サイトの立ち上げに参画。編集長に就任する。
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